少年ジャンプのアンケート至上主義
『バクマン。』が人気ですね。
さて、このマンガはジャンプを舞台にしているだけあって、ジャンプのシステムについてのことが出てきます。すなわち「アンケート至上主義」であり、「10週最下位だったら例外なく連載終了」等。
■参考:マンガがあればいーのだ。 「バクマン。」の暴露に秘められた想い
このアンケート至上主義は批判はこれまでにもありましたが、たしかに今まで少年ジャンプをマンガ雑誌の頂点の存在にのし上げるひとつの原因となった面は否定できません。これによりどうしたら読者に人気が出るかという競争が行われ、切磋琢磨されていた面はあるでしょうから。
そして、今まで数多くの10週~20週(単行本にして1巻から2巻)で打ち切られる作品が存在しました。それらのほとんどはアンケートの結果が悪かったものですが、たしかに正直、その長さで打ち切られるものは質的にも……というものがかなり多いのは否めません(それから再起して、次tのヒット作に繋げた方も多いですが)。
前述のようにアンケート至上主義は少年ジャンプ躍進の原動力となったのは否定しませんが、残念ながらシステムというものに完璧なものはありません。何か絶対取り落としやほころびが出てしまいます。そこがこのアンケート至上主義の批判される面でしょう。
そのシステムのほころびの影響を受けてしまったのは誰か、と考えると、私は『恐竜大紀行』『てんぎゃん』の作者である岸大武郎氏を挙げます。
『恐竜大紀行』
では、このふたつのマンガについて説明します。
『恐竜大紀行』は、少年ジャンプに1988~1989年に連載されたマンガ。当時はジャンプの超黄金期で、『ドラゴンボール』などが大人気となっていたところへの新連載でした。
当時子供心にこれはすごく印象に残りました。というのは、文字通り恐竜だけで人間が全く登場しなかったからです。しかも『ぼのぼの』のようなキャラクター的なギャグマンガでもなく、本当にリアルな恐竜が出てきて、それが織りなす物語となっていました。

『恐竜大紀行 完全版』P52
しかし、学習マンガとは一線を画すのは、ちゃんとその恐竜たちがその世界でリアルに生きている描写がなされ、人間模様ならぬ弱肉強食世界での恐竜模様が展開されていること。食う時は必死で追い、そして逃げる。それに生命の誕生と、そういうものをちゃんとドラマにしているのですね。たしかに当時のジャンプからしたら異質ではありましたが、強くインパクトを残した作品です。
絵もかなりうまく、傾向としては坂口尚氏や岩明均氏に近い方面。だけどこの緻密さが逆に本誌では浮いていました。なんというか星野之宣氏がジャンプに来たような感じでしたから(当時星野之宣氏はさすがに知らなかったけど)。
ちなみにストーリー&絵でずっと覚えていたのは、ラスト近くの隕石落下時、必死で生きのころうとあがく恐竜の描写と、死を迎えそうな顔。ここにかなり心を奪われました。ですのでその次の週に終わった時は残念に思ったものです。

『恐竜大紀行 完全版』P249
『てんぎゃん』
あともう一作は『てんぎゃん』というマンガで伝記もの。しかも『花の慶次』のような戦国ではなく、近世日本で、南方熊楠を扱ったというもの。ビックコミック系で連載されるならありそうでも、当時のジャンプではかなり異色でした。
そして予想通り、これも短期間で終わりましたが、ここから南方熊楠を知った当時の子供もかなりいるのではないでしょうか。
ジャンプ最盛期故のアンケート至上主義の穴
何故これらマンガが12週で終わったのか、というと、ある程度の人には想像がつくでしょう。派手さがない、人間が出てこないと、ジャンプにおける人気の要素をことごとくずらしていたため。良作ではあってもアンケート的なものにそぐわなかったという点があります。残念ながらジャンプが取り逃してしまった色なのですよね。
ただ、この当時は少年ジャンプが歴代最高の売り上げ(600万部超)となった90年代初期には競争が激しく、このほかにも今見ると十分面白いのに打ち切りになってしまう作品というのもありました。例えば井上雄彦氏の『カメレオン・ジェイル』もそこそこ面白かったのに12週打ち切りでしたし。
■参考:ジャンプ打ち切り大全(ジャンプ情報局)(※2012/12/1リンク切れ)
記録ではなく、記憶に残るマンガ
しかし、これらは、同じ年代の人達の間で、「あのさあ、昔ジャンプで恐竜のマンガあったよね」「ああ、あったあった」と話し合うことがあったものの、長年実物を見れずにいました。
しかし、覚えていた方は多いようで、あの「バーチャルネットアイドル・ちゆ12歳」でも岸氏がコミックバンチで連載を開始sれた時に話題に出ました(それと同時に氏のサイトがちゆショックでアクセスが増加したらしいです)。
■参考:バーチャルネットアイドル・ちゆ12歳 – 「バンチ」打ち切り第一号は韓国漫画
近年、復刊。鳥山明氏の推薦文も
しかし、近年『大恐竜紀行』の方はジャンプのマンガでは珍しいB5サイズ(つまりジャンプコミックスの倍の大きさ)でジャイブから復刊されました。
ここではその緻密な絵柄が拡大されても尚立派に見えます。先述のように話はもちろんいいですが、恐竜画集としてもよい出来。
さらに同時期にドラゴンボールを連載されていた鳥山明氏のあとがきが寄せられ、非常に高い評価をされています(正直、鳥山先生が帯をよせることは珍しいと思います)。
ちなみに完全版のあとがきによると、恐竜をテーマにしたものは作者の岸氏も人気が出にくいだろうと思ったらしいですが、それを「人気を考えるより完成度を考えろ」とプッシュしてくれたのが当時担当編集だった椛島氏だったということ。この方、『ジョジョの奇妙な冒険』でも1部から3部あたりまでの担当をされた方で、荒木氏も文庫版で謝辞を書いておられましたが、なんとなく納得した感じがします。そして、たとえ1巻分でも読み応えのある名作として残ったと。
ちなみに岸氏は現在でも活動されておられます(デザインの会社を設立されてもおられるようです)。
完全版は1500円ちょいと高いですが、恐竜ものに抵抗のない人は一読してみることをお勧めします。そして、ジャンプでこれが連載されたこと、そして12週という短期間の連載でもこのような名作があることを知ってください。
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