私はわりと「幼なじみもの」、つまり男女の幼なじみが甘酸っぱい青春とか恋愛模様を披露するような作品が好きです。ただ、残念ながら設定では主人公とヒロインが幼なじみという関係のものはあっても、設定で止まってしまい、そこで幼なじみであるが故の何かというのが特にないまま、普通の主人公とヒロインものになるようなものも多く、そうじゃないんだと思うこともしきり。幼なじみものは、昔からの関係が故のお互いに寄せ合う好意の微妙な距離と、その変化の妙を見たいのですよ。
そんな欲求の中、いろいろと買ってきたマンガを読んでいたらなかなかのものを見つけました。それが葉月抹茶さんの『君と紙ヒコーキと。』。
この作品は、ガンガンONLINEに連載されていたもので、基本はストーリー4コマですが、時に普通のコマ割り進行が入る形式となっています。絵柄(というか塗り)はどちらかというと少女まんが風ですが、それが作品の雰囲気にあっている感じ。
舞台は普通の高校。で、メインの登場人物は主人公の浦木圭と、その幼馴染であるヒロインの松野鈴。この二人を中心として、仲間である竜介、葵を交えて話が進行します。
さて、ヒロインの鈴にはちょいと変わった点があります。それは誰かに話しかけるかわりに、メッセージを書いた紙ヒコーキを飛ばすというもの。で、その主な対象は圭。
何故鈴は、わざわざ紙ヒコーキでこんなことをしてくるのか、(最初のうちは)圭もわかってはいません。しかし、そうすることで鈴と触れあえることに自分でも気づかないうちにうれしさを感じているそぶりが見られます。
さて、気になる二人の間柄ですが、見た目から鈴は圭を慕っているように見えます。そして圭は口では「恋愛感情はない」とはいいつつ、ちょっとしたことでドキリとしたり、ふたりの間に誰か(特に高崎竜介=りゅう。いい奴)が入ってくるとヤキモキしたり。幼馴染ものでは定番ではありますが、それがいい感じですな。
ちなみにこの二人やほかの仲間を交えた漫才のような、それでいてほのぼのとしたやりとりがなかなか心地いい空間を作り出しているのですよね。これもまた、青春的。あと、ちょっかいとか出す人はいますが、全員イヤな奴じゃないというよりみんないいコなので、気分良く読めます。
さて、この作品は主に主人公である圭の視点から描かれるのですが、物語の途中までは鈴はその圭に対して向けられる笑顔を絶やさない女の子に見えます。しかし、実際はそうではなく、なかなか人と話せない性格なことが判明します。それが故に紙ヒコーキを使うことになったのですが、やはりそれは子供のころの圭が関係していたりします。
ですが、圭のほかにりゅう、そして葵といった仲間が出来て、だんだんと周りの人とふれあえるようになってきます。
しかし、そんな二人の関係に、というか圭の心情にだんだんと変化が生じてきます。
人見知りする鈴がに人に慣れてきたこと、それは圭にとっても喜ぶべきことなのですが、そこで説明し得ない、不思議な感情。
今までは自分と二人だけでやりとりをすることが多かった鈴。しかしまわりに人が集まってくることで、鈴に取っての自分の存在は必要か…という事を考えたり。
そして、鈴がもう自分を必要としないという夢を見てしまったことから生じるすれ違い。そして…
ここから先は、ネタバレなので伏せますが、なかなか幼馴染もの好きの人間にいい感じを与えてくれました。
全体として雰囲気も良く、テンポもいい感じなので、幼馴染もの好きな人だけではなく、学園もの、青春ものが好きな人も読まれるとよいと思います。
この二人はこの作品は巻末のコメントによると登場人物たちの「第一の季節」なのだそうで。ま、たしかにこれからがいろいろ関係の変化に期待できるところなのでここで終わりというのは、もったいない気がします。ですが、応援次第で「第二の季節」もあるかもとのことですので、私は応援したいと思います。