京極夏彦も絵を描いたとり・みきと合作マンガ『美容院坂の罪つくりの馬』

とり・みき×京極夏彦『美容院坂の罪作りの馬』 マンガ

ミステリーをメインとして有名な小説家である京極夏彦氏。その京極氏がかつてマンガを描いたというのをご存じの方はどのくらいいるでしょうか。それは既存の小説、もしくは文字で書いた脚本を原作として誰か他のマンガ家が描くというものではなく、原作、ネーム、そして作画も分担した「合作」として、とり・みき氏と組んで作成したもの。そのタイトルの名前は『美容院坂の罪つくりの馬』。1998年の作品です。

とり・みき×京極夏彦『美容院坂の罪作りの馬』

 

とり・みき『猫田一金五郎』シリーズ、それと『COMIC CUE』

とり・みき氏の作品の中には、「猫田一金五郎シリーズ」というものがあります。これは横溝正史などの古典ミステリー小説や映画をパロディーにした感じのマンガなのですが、全体的に実験的な色居合いが濃く、だまし絵トリック、大人数登場人物など、他ではなかなかあり得ないギャグとシュールさを感じる作風となっています。

この作品、読み切りシリーズの形なのですが、1990年代後半当時あちこちの雑誌に掲載されておりました。例えば『アスキーコミック』(コミックビームの前身)、『メフィスト』、『少年キャプテン』、『月刊ガロ』と出版社までバラバラ。だけど自分は当時そういったマイナー系のマンガを読むのが好きで、やけに雑誌連載中に読み切りにブチ当たっていました。

そしてその中の雑誌の一つが『COMIC CUE』というもの。これはイーストプレスが出していたもの。創刊時は当時活動が停滞していたの江口寿史氏の責任編集という形で始まりましたが、いつにまにか変わっていました。あと(近年一号だけ出た『コミックキューガール』とは関係がないです。

特徴的だったのは、毎回テーマが定められていて、それに沿ったマンガが掲載されていたこと。それも「ポルノ」だったり「スコシフシギ」だったり「ロボット」だったり。あと執筆陣もあらゆるジャンルの人がいましたが、比較的青年誌の人が多く、今で言うと今年休刊した『マンガ・エロティクス・エフ』に近い印象でした。ちなみに通巻で13冊出た2003年以降刊行はストップしています。

 

コラボ作品『美容院坂の罪つくりの馬』

その『美容院坂の罪つくりの馬』が掲載されたのは、Vol.4の「コラボレーション」特集。文字通り全部の作品が合作となっていますが、それはマンガ家同士であったり、はたまた小説家や詩人など全く違う分野の人もいました。

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Comic cue (Vol.4)

そして、とり・みき氏が組んだのが、京極夏彦氏。氏の作家デビューが1994年ですから、まだそれから3~4年という時代。

この作品は2ページずつネームを書いて、それをFAXで相手に送り続きを書く、の繰り返しで作られたもののようです。しかし、とり・みき氏のシリーズでさえ普通にカオスなのに、小説が混じるわフォント芸が混じるわフォローチャートが入るわキャラクターに水木しげるキャラやねじ式のオッサンまで混じるわと、カオスっぷりにいちだんと磨きがかかっています。そしてそのあたりが通常のシュールさと相まって笑いを誘います。

最初のページがこれ(京極氏ネーム担当ページ)。

とり・みき『猫田一金五郎の冒険』P104

とり・みき『猫田一金五郎の冒険』P104

 

さて、最初にこの作品は京極氏も作画を担当してると描きましたが、それは当時の雑誌(家の奥から発掘した)のあとがきには「タイトルロゴ、さつき、ウデゲルゲ、ねじ式ほか隠れキャラの作画」とあります。

おそらくはこのへん。

とり・みき『猫田一金五郎の冒険』P112

とり・みき『猫田一金五郎の冒険』P112

あとこっちは超有名な『ねじ式』のあの人。

とり・みき『猫田一金五郎の冒険』P116

とり・みき『猫田一金五郎の冒険』P116

ちなみに原作でのモデルはアイヌ人教育者の知里高央氏だそうです。

しかしこんな感じでカオスに展開してゆきますが、一応最後はつじつま合わせが行われているという(多分)。

 

こんな感じのコラボでなかなかカオスですが、他のものもかなり上手く出来ていたり、カオス度がさらに上を行っていたりするというコラボ特集。

余談ですが、この『COMIC CUE』の4号、『孤独のグルメ』の原作者である久住昌之氏が参加していて、当時まだほとんどの人が知らなかった『孤独のグルメ』をこの雑誌で知り、読んだのがきっかけでした。

 

雑誌はないけどレーベルとして存在するCUE COMICS

ちなみにこの猫田一シリーズをまとめた単行本は講談社から『猫田一金五郎の冒険』というタイトルでハードカバーで出ておりまして、そこに収録されております(今回最初雑誌が見つからなかったので、購入したらその数日後に雑誌が押し入れから出てきたという)。

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猫田一金五郎の冒険 (MEPHISTO COMICS)

『COMIC CUE』も10年以上前に休刊していますが、単行本は今でもキュー・コミックスとう名前でイースト・プレスのマンガレーベル名として出ており、とり・みき氏の最新刊も今月に出ます。

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メカ豆腐の復讐 (CUE COMICS):とり・みき

 

猫田一シリーズにしても雑誌にしても、けっこう今読み返しても面白いもの多いので(まあ雑誌のほうは読む人を選ぶマンガはありますが)、このレーベルでの再版、もしくは電子書籍とかで出たらおもしろいと思うのですけどね。あと、Wikipediaを見たら、京極氏はほかにもマンガ描いていたようなので、それも見てみたい感じです。

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