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『バクマン。』における30過ぎの新人マンガ家、中井の立ち位置について考えてみる

 ※今日のエントリーは『バクマン。』の単行本未収録(おそらく4巻収録)の内容が含まれますのでご注意ください。

 自分は『ジャンプ』においては単行本派だったのですが、最近雑誌を買うようになりました(だけど場所取るんだよなあ。ある意味この場所を取るってのが、雑誌全体の売り上げ部数減少の最大要因かも)。それは連載で読みたい者が増えたためなのですが、そのひとつが『バクマン。』

バクマン。 3 (ジャンプコミックス)
バクマン。 3 (ジャンプコミックス)

 『バグマン。』では、最近とうとう亜城木夢叶が連載をスタートさせますが、その片方で福田真太、中井拓朗(+蒼樹紅)といったマンガ家仲間も連載陣に加わります。

 さて、おそらくはこのうち誰かが打ち切られる展開もあるのではないかと思うのですが(今週の展開からすると意外な展開もありますが)、一番それを逃れてほしいと思っている人がいます。それが中井拓朗。

 この中井というマンガ家、実は『バグマン。』のマンガ家の中でも浮いているところがあります。まずは年齢。主人公達が高校生、そして他のマンガ家も20代前後という中、中井だけが35歳と浮いています(例外は脱サラの平丸くらいか)。この中井は10年以上前に月例賞をとったけど、ストーリー構成力がダメダメなせいかデビューできずにそのまま10年以上アシスタント専門でやってきたという経緯があるからです。
 初期はこんな感じでしたし。
 
 

大場つぐみ&小畑健『バクマン。』3巻P141

大場つぐみ&小畑健『バクマン。』3巻P141

 さて、この中井、実は私はかなり共感を覚えるものがあります。それは年が近く、いろいろ思うところがあるというのもあるでしょうが、もうひとつ、それこそ少年マンガにある特徴として共感を覚えるのです。

 実はこのマンガに書かれているマンガ家たちですが、実はとんでもない天才のばかり出てきます。主人公及び新妻エイジは高校生あたり、福田は20くらいなのに連載を持っているというのは、普通は考えられません。つまり圧倒的な天才なのです。さらに平丸はマンガ家になる前までマンガを呼んだことがなかったのに、網棚のジャンプを見て『これなら自分で描ける』と思っていきなりデビューとなった天才です。この作品では新妻エイジが圧倒的な天才として描かれていますが、周りは天才だらけなのです。なんというか、ドラゴンボールにおけるセルとの戦闘において、悟空の周りにいるような面子ばっかりという感じ。

 それに対して、中井は「平凡な人」なのですよね。そのためデビューできずに長年アシスタント専属だったと(意欲の問題もあるでしょうが)。でも、本当はこの「いくら経っても連載できない人」のほうがマンガを描く人間にとっては圧倒的に多数なのですよね。つまり主人公たちより中井のほうが確実にリアルなわけです。
 でも実は中井は画力に関しては優秀です。というのは経験による画力があるので、絵のうまさだけなら新妻以上の部分もあるとストーリーを与えられれば連載を得られたという感じで。だけど、ストーリーの作成能力と経年の意欲減退のせいでこうなっていたと。だけど、主人公達との出会いで意欲を取り戻し、努力して連載へとこぎ着けます。

 さて、この中井の立ち位置、よく考えてみると少年誌の王道的作品でも似たようなものがあるのではないかと。
 まず、『ワンピース』におけるウソップ。あの世界レベルの仲間達が周りにいるため、弱いキャラとして扱われます。しかし実際は勇気を振り絞り、持ち前の射撃の才能を生かして活躍する場面が見られます。あと、『るろうに剣心』の弥彦なんかもそうですね。周りが強すぎるのでどうしても弱い立場に見えてしまいますが、それでも勇気を振り絞って自分以上の敵に向かってゆくと。
 ここには「平凡な者のカッコよさ」があります。それは、周りが強くても、自分の全力を振り絞ることで天才達に追いつこうとする努力の人という感じ。これは客観的に天才を見る読者にも共感を与えます。

 つまり中井は、こんな「天才じゃないけど努力で追いつこうとする人」という少年誌にある立ち位置を『バグマン。』の中で表現しているの人物なのではないかと思えるのです。
 そう考えると、少年誌のマンガとしては邪道のように思える『バグマン。』も、実は王道的な面が強いのではないかと思えるのです。まあ少年誌向けでなかったらそもそも高校生デビューとかあまりないし、作画が担当ぶっちぎって原作に電話したらたぶん問題になるような気がするし。でも、少年誌的なマンガ家マンガがいいので、このスタイルにしてほしいと思います。万が一リアルというかアレなのでも読みたかったらこちらでも。

 まんが極道 1 (BEAM COMIX)
まんが極道 1 (BEAM COMIX)

 まあ、そういうわけで個人的には中井は打ち切らないでほしいなと(他の面子はいくらでも再チャレンジできるからまあ)。なんかあとは中井が蒼樹嬢に惚れている描写が見られますが、あまりこれで泥沼にならないことを祈ります。

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週刊少年マガジンの巻末マンガ『もう、しませんから。』の存在について考えてみる

 以前『マンガ雑誌における「巻末マンガ」について考えてみる 』というエントリーで様々な巻末マンガに触れましたが、その中で週刊少年マガジンの巻末をにある西本英雄氏の『もう、しませんから。』についても触れました。

 もう、しませんから。 1 (1) (少年マガジンコミックス)

 これはレポート式マンガなのですが、以前からこれについては考えていることがいろいろあったので、ちょっと書いてみようと思います。

 さて、週刊少年マガジンの巻末を5年近く飾っている『もう、しませんから。』ですが、なにげに読んでしまうマンガですよね(『さよなら絶望先生』でも、週マガで読んでいるマンガを答えるところで、この名前が挙がっていました)。ここ数年の週マガの巻末として定着したと言ってもよいと思われます。
 しかし、連載が始まった当初、ちょっとした違和感を覚えていました。というのは西本氏、作中ではかなり立場の弱いギャグキャラになっている感じですが、実際は最初の週刊少年マガジンの巻末マンガ『ポチのへなちょこ大作戦』が1991年連載開始であり、それから『ポチのへなちょこ大作戦Z』を経て20年近く週刊少年マガジンの巻末を描いているので、十分ベテラン組であります(赤松健氏の週マガデビュー時には既に連載していた)。しかし、レポマンガというのは、たいてい今までの場合、新人がやるような印象があったのですよね。それをベテランの西本氏がやるというのはなんでだろ? というのはずっと思っていました。
 ただ、結果としてこのような内容のレポマンガ、とりわけマンガ家を度々登場させるマンガは、週刊少年マガジンにおいては西本氏しか出来なかったのではないか、とも思えるのです。

 前述のように、西本氏は週刊少年マガジンではベテランクラスです。4コマギャグマンガはページ数が少ないため、雑誌の中でそれほど目立ちませんが、20年近く週マガで連載を持ち続けているというのは驚くに値するでしょう。まあ週マガは『はじめの一歩』の森川ジョージ氏などベテラン陣が多いので目立たないというのもありますが。(余談ですが、90年代はマガジンでも4コマギャグはかなり強化されていて、密度が高いものが多かったですね。『激烈バカ』『Let’sぬぷぬぷっ』等々)。
 で、マンガを見ての通り、森川氏にもそれなりに遠慮無く出来る人ですが、おそらくマガジンのマンガ家の中でこれが出来る人は、かなり限られるのではないかと。さらにギャグマンガ家なら。
 いや、これは上のベテラン先生方が偉そうにしているというのではなく、やはり目上の人を相手にすると、自然と描き手はへりくだってしまうものだと思うのですよね。つまりはこの週刊少年マガジンで、それなりに立場があり、且つギャグを描ける人として、この手のレポマンガをするのは西本氏しかいなかったのではないかと。

 思うに、この手の「マンガ家がマンガ家についてマンガを描く」という場合は、3つのパターンがあると思うのですね。ひとつめは自分を中心にその周辺を描くこと。つまり『まんが道』のような自伝タイプですね。これは自分と親しい人のことですから、けっこう自由に描いている感じがします。ただ、自分より上の人のことについては、すごく立派な人というように描いていて、お笑いキャラにはあまりなりません。例えばまんが道におけるトキワ荘の人達はかなり笑えるキャラになっていることがありますが、手塚治虫先生については立派な人で通されています。
 あと、先日紹介した『実録あだち充物語』も、ギャグマンガ家であり、且つ遠慮無く実弟のことを描けるあだち勉氏だからこそ描けたものかもしれません。

 ■参考:巨匠・あだち充の兄、あだち勉という破天荒な人物の存在 – 空気を読まずにマンガを読む

 ふたつめのパターンは新人などが描くパターン。つまり新人がレポマンガなどでマンガ家が登場する場合。思いつくのはアニメ化のアフレコ時の実況とかですね。ただ、これは自分を徹底的に低くして、他のマンガ家や声優は高くするパターンが使われることが多いと思われます(一部それを破る人もいるけど)。

 そして3つめがこのようにある程度の立場のある人が描くパターン。もしくは立場を気にしない作風の人が描くパターンですね。で、立場がある人のマンガというのは、前述のように『もう、しませんから。』ではないかと。
 で、気にしない作風の人というのは、現代洋子さんの『おごってジャンケン隊』かなと。あれは現代洋子氏が遠慮無く突っ込める性格だったからこそうまくいったのかなと思います。あと、レポマンガという明確なものはないけど、エッセイで西原理恵子氏がけっこう他のマンガ家、作家に触れて面白さを出すことがありますね(ちなみに現代氏と台原氏は育ててくれた小学館の担当の人が同じ人だということ)。

 で、それぞれのパターンで、またそれぞれの描き手によって一長一短あるでしょうが、やはり自分だけでなくて相手も崩すことの出来るほうが、この手のマンガ家に触れるレポマンガでは面白いと思うのですよね。実際、ここ数年の間にジャンプやサンデーでもレポマンガらしきものはやっていますが、それが継続的に続いたものはありません。かといって、この2誌でそこまでやらせられる人はいないでしょうし。
 故にこのルポマンガをやるにあたっては西本氏しかいなかったのではないかと。まあ、マガジンの場合は西本氏が描くのが決まっていて、そこで一番合うのがレポマンガだったという、企画勝ちという点も大きいでしょうが。

 しかし『もう、しませんから。』は終わる気配がありませんから、西本氏、なんだかこのままだと30年間巻末で書き続ける可能性も出てきたのかもしれないなんて思ったりします。

 もう、しませんから。 8 (8) (少年マガジンコミックス)

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少年ジャンプのアンケート至上主義が取り落としたもの~『恐竜大紀行』

少年ジャンプのアンケート至上主義

 最近『バクマン。』が人気ですね。

 バクマン。 1 (1) (ジャンプコミックス)

 さて、このマンガはジャンプを舞台にしているだけあって、ジャンプのシステムについてのことが出てきます。すなわち「アンケート至上主義」であり、「10週最下位だったら例外なく連載終了」等。

 ■参考:マンガがあればいーのだ。 「バクマン。」の暴露に秘められた想い

 このアンケート至上主義は批判はこれまでにもありましたが、たしかに今まで少年ジャンプをマンガ雑誌の頂点の存在にのし上げるひとつの原因となった面は否定できません。これによりどうしたら読者に人気が出るかという競争が行われ、切磋琢磨されていた面はあるでしょうから。
 そして、今まで数多くの10週~20週(単行本にして1巻から2巻)で打ち切られる作品が存在しました。それらのほとんどはアンケートの結果が悪かったものですが、たしかに正直、その長さで打ち切られるものは質的にも……というものがかなり多いのは否めません(それから再起して、次tのヒット作に繋げた方も多いですが)。

 前述のようにアンケート至上主義は少年ジャンプ躍進の原動力となったのは否定しませんが、残念ながらシステムというものに完璧なものはありません。何か絶対取り落としやほころびが出てしまいます。そこがこのアンケート至上主義の批判される面でしょう。
 そのシステムのほころびの影響を受けてしまったのは誰か、と考えると、私は『恐竜大紀行』『てんぎゃん』の作者である岸大武郎氏を挙げます。

『恐竜大紀行』

 では、このふたつのマンガについて説明します。
 『恐竜大紀行』は、少年ジャンプに1988~1989年に連載されたマンガ。当時はジャンプの超黄金期で、『ドラゴンボール』などが大人気となっていたところへの新連載でした。
 当時子供心にこれはすごく印象に残りました。というのは、文字通り恐竜だけで人間が全く登場しなかったからです。しかも『ぼのぼの』のようなキャラクター的なギャグマンガでもなく、本当にリアルな恐竜が出てきて、それが織りなす物語となっていました。

 

『恐竜大紀行 完全版』P52

『恐竜大紀行 完全版』P52

 しかし、学習マンガとは一線を画すのは、ちゃんとその恐竜たちがその世界でリアルに生きている描写がなされ、人間模様ならぬ弱肉強食世界での恐竜模様が展開されていること。食う時は必死で追い、そして逃げる。それに生命の誕生と、そういうものをちゃんとドラマにしているのですね。たしかに当時のジャンプからしたら異質ではありましたが、強くインパクトを残した作品です。
 絵もかなりうまく、傾向としては坂口尚氏や岩明均氏に近い方面。だけどこの緻密さが逆に本誌では浮いていました。なんというか星野之宣氏がジャンプに来たような感じでしたから(当時星野之宣氏はさすがに知らなかったけど)。

 ちなみにストーリー&絵でずっと覚えていたのは、ラスト近くの隕石落下時、必死で生きのころうとあがく恐竜の描写と、死を迎えそうな顔。ここにかなり心を奪われました。ですのでその次の週に終わった時は残念に思ったものです。

 

『恐竜大紀行 完全版』P249

『恐竜大紀行 完全版』P249

『てんぎゃん』

 あともう一作は『てんぎゃん』というマンガで伝記もの。しかも『花の慶次』のような戦国ではなく、近世日本で、南方熊楠を扱ったというもの。ビックコミック系で連載されるならありそうでも、当時のジャンプではかなり異色でした。
 そして予想通り、これも短期間で終わりましたが、ここから南方熊楠を知った当時の子供もかなりいるのではないでしょうか。

ジャンプ最盛期故のアンケート至上主義の穴

 何故これらマンガが12週で終わったのか、というと、ある程度の人には想像がつくでしょう。派手さがない、人間が出てこないと、ジャンプにおける人気の要素をことごとくずらしていたため。良作ではあってもアンケート的なものにそぐわなかったという点があります。残念ながらジャンプが取り逃してしまった色なのですよね。
 ただ、この当時は少年ジャンプが歴代最高の売り上げ(600万部超)となった90年代初期には競争が激しく、このほかにも今見ると十分面白いのに打ち切りになってしまう作品というのもありました。例えば井上雄彦氏の『カメレオン・ジェイル』もそこそこ面白かったのに12週打ち切りでしたし。

 ■参考:ジャンプ打ち切り大全ジャンプ情報局

記録ではなく、記憶に残るマンガ

 しかし、これらは、同じ年代の人達の間で、「あのさあ、昔ジャンプで恐竜のマンガあったよね」「ああ、あったあった」と話し合うことがあったものの、長年実物を見れずにいました。
 しかし、覚えていた方は多いようで、あの「バーチャルネットアイドル・ちゆ12歳」でも岸氏がコミックバンチで連載を開始sれた時に話題に出ました(それと同時に氏のサイトがちゆショックでアクセスが増加したらしいです)。

 ■参考:バーチャルネットアイドル・ちゆ12歳 – 「バンチ」打ち切り第一号は韓国漫画

近年、復刊。鳥山明氏の推薦文も

 しかし、近年『大恐竜紀行』の方はジャンプのマンガでは珍しいB5サイズ(つまりジャンプコミックスの倍の大きさ)でジャイブから復刊されました。

 恐竜大紀行 完全版

 ここではその緻密な絵柄が拡大されても尚立派に見えます。先述のように話はもちろんいいですが、恐竜画集としてもよい出来。
 さらに同時期にドラゴンボールを連載されていた鳥山明氏のあとがきが寄せられ、非常に高い評価をされています(正直、鳥山先生が帯をよせることは珍しいと思います)。
 ちなみに完全版のあとがきによると、恐竜をテーマにしたものは作者の岸氏も人気が出にくいだろうと思ったらしいですが、それを「人気を考えるより完成度を考えろ」とプッシュしてくれたのが当時担当編集だった椛島氏だったということ。この方、『ジョジョの奇妙な冒険』でも1部から3部あたりまでの担当をされた方で、荒木氏も文庫版で謝辞を書いておられましたが、なんとなく納得した感じがします。そして、たとえ1巻分でも読み応えのある名作として残ったと。

 ちなみに岸氏は現在でも活動されておられます(デザインの会社を設立されてもおられるようです)。

 ■岸大武郎 – Wikipedia
 ■DAIMU’S TOWN

 完全版は1500円ちょいと高いですが、恐竜ものに抵抗のない人は一読してみることをお勧めします。そして、ジャンプでこれが連載されたこと、そして12週という短期間の連載でもこのような名作があることを知ってください。

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